「やさしい日本語」がもっと広がるといい
文・写真/池田美樹
数十年に一度の大災害をもたらす恐れがあるといわれた2019年の台風19号「ハギビス」が去りました。
被害に遭われた方は、一刻も早く日常が取り戻せますように。また復旧や関連業務に当たっている関係のみなさま、おつかれさまです。本当にありがとうございます。
ひらがなばかりのツイートが流れてきた
さて、台風が接近前から去ってゆくまで、NHKのテレビとTwitterをチェックしつつ落ち着かない気分で過ごしたここ数日間。こんなツイートが流れてきました。
【がいこくじん の みなさんへ】
— NHKニュース (@nhk_news) October 10, 2019
たいふうが つぎの どようび から にちようび、とうかいちほう や かんとうちほう の ちかくに きそうです。
とても つよい かぜが ふいて、あめが たくさん ふるかもしれません。きをつけて ください。 https://t.co/47Pb7NhZu6https://t.co/kHlFxQUAnGpic.twitter.com/FSULDk4qqU
このツイートにぶら下がっているコメントに「馬鹿にしているのか」「意味がない」という批判が多かったので驚いていたところ、このひらがな表記は「やさしい日本語」であるとの指摘を見つけました(実際にはもっとひどい言葉も多くあったのですが、転載したくないので避けます)。
「やさしい日本語」とは何だろう。調べてみたところ、1995年の阪神淡路大震災の際に、日本語も英語も十分に理解できない外国人が多くいたことで生まれたプロジェクトで、弘前大学社会言語学研究室で研究されていると知りました。
英語がわからない外国人もいる
批判には「なぜ英語やほかの言語で発信しないのだ」というものが多かったのですが、日本に住む外国人の中には、英語がわからない人もいます。
国立国語研究所の「生活のための日本語」に関する調査研究(2009年5月)によると、日本在住の外国人がもっとも理解できる言語として、母国語を除くと日本語が61.7%、英語が36.2%、続いてスペイン語が2.8%、ポルトガル語が2.5%、中国語が1.7%という結果になっています。
日本に住む外国人がもっとも理解できる母国語以外の言語はなんと、日本語なのです(ただし、逆に日本語を挙げない人が38.3いることにも注意する必要があります)。これは私も知りませんでした。これまでに訪れた40か国あまりの国々で、英語が通じなかったことが多々あったにもかかわらず、国内にいるときは外国人といえば「英語はきっと理解できるもの」というバイアスがかかってしまっていたのです。
災害時に特に有効
ところでなぜ、やさしい日本語に「減災のための」という但し書きがついているのかというと、災害が起こったときには多言語に翻訳している余裕がないことが多いので、一刻も早く外国人に伝えるために使用することを想定してつくられているからです。日本語を話す人ならば、誰でも比較的容易につくることができるという利点もあります。
先にご紹介した弘前大学社会言語学研究室の「減災のための「やさしい日本語」」には、「やさしい日本語の作り方」が掲載されています。「1文を短くして文節で余白をあけて区切り、文の構造を簡単にする」など12の規則が詳しく紹介されています。
ちなみにNHK では、外国人や小学生・中学生向けにわかりやすいことばでニュースを伝えるNHK WEB EASYというニュースサイトも開設しています。人の名前は緑、国や県、場所などの名前はオレンジ、会社やグループなどの名前は青で示され、わかりにくそうなことばには下線をつけて辞書をポッポアップさせるなど、工夫されています。
■NHK WEB EASY
これからもっと多くの外国人が日本に住む世の中になることでしょう。ダイバーシティという側面からも、「やさしい日本語」の存在を知っておくことや使えるようになることは、とても意味があることなのではないかと思います。また、「やさしい日本語」の存在がもっと多くの人に知られるようになるといいと感じました。