これは私たちの物語だ。『82年生まれ、キム・ジヨン』
文・池田美樹
これは、私の物語である。同時に、あなたの物語でもあり、私たちの母の物語でもある。そして私たちの娘の物語でもあるかもしれない。
キム・ジヨンとは、韓国で1982年に生まれた女性のなかで一番多い名前だという。どこの誰にでもあるような、ごく普通の生き方をしてきた彼女に、突然、他の女性が憑依するところから物語は始まる。
精神科医の回想という形を取って進んでいく、平凡な女性の平凡な半生を描いただけの小説。特段、大きな出来事も起きない。それなのに、こんなに心揺さぶられるのは、これが女性の「事実」を描いているからだ。
女だからと弟を優先されること。進学を諦めさせられること。就職の推薦が得られないこと。同期なのに男たちの給与が高いこと。彼らが先に出世していってしまうこと。上司からセクハラをされること。夫に家事を「手伝う」と表現されること。育児で一度退いた後の仕事がないこと——。
あまりにも当たり前だと思って飲み込んできたことが、どれだけ静かに私たちを傷つけてきたか。キム・ジヨンの半生をたどるごとに、自分自身に問いが突きつけられる。
なぜ、自分のことなのに気づかぬふりをしてきてしまったのかと。
本書は、韓国人作家による作品で、100万部を超えるベストセラーになった。この本を読んだというだけで、著名人女性がフェミニストといわれ、賛否入り混じった大きな反響を巻き起こすなど、さまざまな形で話題になってきた。
だからといって、この物語は韓国だけのことに限らない。なぜなら、読んでいるうちに同じように胸が痛むからだ。文化の違いを超えても、女性のありようには共通点がある。実際、日本でもこの作品は話題になり、本は売れていると聞く(※2019年2月20日現在、8万部を突破している)。
世界経済フォーラム(World Economic Forum)が発表しているグローバルジェンダーギャップレポートに掲載された2018年のジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index)において、日本はG7中最下位の110位だった。韓国は115位である。
社会を変えていくためには、まず、私たち女性が、当たり前のことだからと自分を欺いていたことを認め、向き合うことが必要なのかもしれない。
『82年生まれ、キム・ジヨン』
チョ・ナムジュ 著、斎藤 真理子 訳(筑摩書房)
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