ノルウェー出身の若い男と暮らしてみれば vol.2 猫の匂い
文/池田美樹
猫の匂いというものは
「匂い」が好きだ。
雨の降り始めの土の匂い、夏のムッとした草いきれ、材料が料理に変わる瞬間、冬のキンと冷えた空気…匂いを感じると、なんだか本能的に「生きている」という感覚がする。
そして、今一番好きなのは猫の匂いなのである。
猫の身体に鼻を近づけて嗅いでみる。我が家の猫はまだ子猫なので、ちょっとミルクのように甘い獣の匂いがする。これがいい。背中、脇腹、おなかと嗅いでみるが、おなかが一番匂強く匂うようだ。長毛種の毛に鼻を埋めて嗅いでいると、自分も子猫になったように感じる。
実家にいる頃は、大学時代に拾ってきた猫を手始めとして、何頭も飼い続けてきた。田舎の実家では、猫を自由に外に出していたので、彼らの身体からはなんともいえない野生の匂いがした。
雨の日に濡れて帰ってなど来ると、荒野で濡れた動物たちもこういう匂いがするのだろうかと思う、野獣らしいタールのような匂いがした。
実家のすぐ前に、幹線道路が通ってからは外に出せなくなった。実家の中で、猫たちは窮屈そうだったが、案外気楽にのほほんと生きているようにも見えた。
今、私の部屋はマンションの10階なので、もちろん猫を外に出すことはできない。その代わり、できるだけ長い距離を走り回り、できるだけ上り下りが楽しめるようにと家具の配置も工夫した。
ひとしきり運動した後など、顔を眺めながら私に擦り寄ってくる。そして大きくあくびをするのだが、このあくびの時の猫の口から漂ってくる匂いも好きだ。猫の餌、通称カリカリに含まれる魚の匂いがする。猫から魚の生臭い匂い。なんとも良い相性だ。この匂いは、ただし、猫があくびをするときしか嗅げないので貴重だ。
そして、猫といえば、肉球の匂い。これは、ポップコーンやらバニラやら枝豆などの匂いがするのだそうだ。知らなかった。
実家の猫たちも、我が家の猫も、肉球を嗅いでみたことはなかった。ためしてみよう、と、おとなしくくつろいでいるところに近寄り、前脚と後ろ脚をつまみあげ、鼻に近づけて嗅いでみる。
…何の匂いもしない。
そうか。猫が唯一、汗をかくところがこの脚の裏だけらしいのだ。今はまだ汗をかくほどの季節ではない。だから何も匂わないのだ。まだブニブニと弾力のある若い肉球を押しながら、私は、実家で看取ってきた何頭もの猫たちのガサガサだけど、年期の入った肉球を思い出していた。
夏になったら、我が猫の肉球の匂いを嗅いでみよう。どんな匂いがするだろうか。
そして、彼が成長した時は、どんな野生の獣の匂いがするだろうか。今から待ち遠しい。
写真/池田美樹
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