2018年04月05日

おひとり様で旅をする。

文/及川恵利

世の中には女性のおひとり様市場というものがあって、特に飲食や旅行・ホテル業界は注目しているのではないだろうか。焼肉も旅館への宿泊も、女性向けのおひとり様メニューやプランを用意しているところが増えている。実際、一人で外に出て、その時間を楽しんでいる女性が私の身近にもいる。実に颯爽としていて迷いがない。しかしもう少し話を聞くと、Barは行けるけどレストランはダメとか、映画はいいけどライブはダメとか、実に仔細な気持ちの揺れがあるケースも少なくない。

私が大人になって苦手になったものが一つある。「ひとり旅」だ。そういえば海外へはもう5年間行っていない。転職して忙しかったというのもあるが、本当の理由はそこではない。一緒に行く相手が年々減り、ついにリストからいなくなってしまったのだ。友人たちは結婚、出産を経て立派に子育てしているし、わずかに残ったシングルたちはこぞって海外旅行に興味がなかったり、休みのペースや旅先の好みがあわないのである。ただでさえ海外旅行というものは国内とは違い、結構相手を選ぶものだ。

「一人でいけばいいんじゃない?」。決まってそう言われる。

そう、おひとり様なんて今時何も珍しくない。

かつては一人旅もへいちゃらだった。そもそも初めての海外旅行が単身での渡英で、語学学校や航空券の手配も含めて一人で嬉々として行ったものだった。でも今は「お金を払って孤独になりに行くなんて嫌」という思いが先に立つ。私の価値観はいつしか変わり、一人旅は独り旅、こちらの漢字の方がしっくりくるようになっていた。

恐らく引き金となったのは5年前のニューヨーク旅行だと思う。その前年に、当時付き合っていた男性が短期の研修でNYCに滞在しており、とある週末に私が遊びに行くことになっていた。ところが、いざ出国という前日に、大型台風の接近によりフライトが欠航となってしまったのである。チケットは1年間有効という措置が取られたが、二人の関係はもろいもので、まもなく消滅をむかえた。そして1年後、いよいよ期限が切れるという月に私は一人、NYCに向かった。一人だと一番困るのが夜である。英語もおぼつかない上に酒が飲めないのは致命的だ。「そうだ、フィットネスジムに行こう」。日本で通っていたジムが米国資本だったため、ニューヨークに支店があったのだ。手続きはいたって簡単で、カードを発行してもらうだけ。年10回まで海外店舗を無料で利用できることがわかった。ミッドタウンの店舗から徒歩圏のところにホテルも取った。スタジオスケジュールも頭にいれた。ホテルのランドリーサービスも確認した。 ところが、である。なんとミッドタウンの店舗は直前にクローズドしてしまったのだ。どこまでついていないのか。結局ライオンキングを見て、サンドイッチとハンバーガーを食べてきた記憶しか残っていない。

大人になり、期せずして一人旅になったことはこの時が初めてではない。すべて男絡みだ。マイレージでアップグレードしたフルフラットシートに横たわっても、寂しさが消えるわけはない。いい加減、もう一人旅は嫌だ。ひしひしと響く心の声を受け止めながら帰国した。

 

20-30代 何はなくても旅をせよ。

 

20代、30代は毎年海外に行っていた。どこへ行こうか、その計画自体が楽しくてたまらなかった。若い時分の海外旅行は多少無理しても行くべきだと思っている。初めてのニューヨークは留学している友人を訪ねて行った25-26歳のころ。友人の現地の仲間たちと適当な材料で作った不格好な天ぷら、最前列で爆睡したジャズバー、酔っぱらって歩きまわったダウンタウン。くだらない思い出もたくさんあって、それはそれは楽しかった。あの時のみんなはどうしているだろうか。 

若さというあふれるほどのエネルギーをもって海外に飛び出すと、多くの刺激を何もせずとも吸収できると思う。そしてできれば10年後に再訪してみるといい。また違う見え方になっているはず。街ではなく自分が変わったのだ。

 

40代 心の赴くままに旅をする。

 

さて、1か月ほど前にアジアの某都市へ行かないか、そんなお誘いが思いがけずあった。どうせパスポートが切れているだろうからと断ったのだが、なんとなく気になって見てみると、1年間分残っていた。「行く。」そう返信してからの気持ちの切り替えは早かった。ぷらっと訪ねるという気軽なノリも心地よかった。とりたてて行きたいという国でもないのだが、久しぶりの旅への高揚感を感じていた。そうか、かつては夏休みや連休に予定を入れなくては、という尺度で旅の計画をしていたのかもしれない。今はもっと自由だ。用意されたおひとり様市場に、乗りたくなければ乗らなくてもいい。ただ、しまい込んでいたパスポートはさらに更新するつもりだ。なんとなく動き出した不思議な流れに任せ、予期せぬ誘いに応えられるように。


2018年04月05日 Posted by eri | カテゴリー: Life-Style | タグ: , ,

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