2018年03月08日

こんにちは、更年期。

文/池田美樹

気がついたのは2か月後くらいでした。「あれ? 先月、生理来てなくない?」

13歳のときに月経がはじまって以来、欠かすことなくログをつけてきました。そういう教育がちょうど中学校でなされ「エンジェルメモ」なる月経ログ手帳をもらったからです。

思えば、あれが生涯で初めてのライフログだったのだな。しかも37年の長きにわたり、私は欠かさずつけ続けてきたのです。すごいよね。

そう、ガジェット男子が「ライフログ、ライフログ」と言い始めるずうっと前、それこそ私の78歳の母が若かりし頃から、女性は「月経の日」と「基礎体温」を密かにつけ続けてきたのです。

子どもには甘くて毒々しくさえ感じられる、粉っぽい化粧品の匂いが染みついた鏡台の奥深くに隠された母の手帳を見つけて、私は生まれて初めて「秘密」という言葉の意味を知ったのでした。

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果たして、私の月経はそれから来る気配がありません。2017年4月をもって、私の子宮は排卵を停止しました(医学的には無排卵月経というものがあるらしいけれど)。

ハッと気がついたことがあります。

そういえば、3月頃から、なんだか熱っぽいな、と思うと全身に汗をかき、その後ぶるぶる震えるほど寒くなり、悪寒がする。さらに、急に手がつけられないほど動悸が速くなり、じっとソファに座り、ただそれが過ぎゆくのをじっと目を閉じて待つ。

急に変わりつつあった生活リズムにまだ慣れないからかな、ストレスかな、春風邪かな、などと思っていたのですが。

あ・れ・が! 更年期障害の始まりだったのです。そう、着替えなくてはいられぬほどの季節外れの汗は、ホットフラッシュという症状なのでした。

月経が来なくなって、念のため、婦人科に検査に行くことにしました。「妊娠の心当たりは?」「…ありません」

簡単な問診のあと、血液を採り、結果が2週間後に出るから来いといいます。カウンセリングは自費診療だから1万円、検査に1万円の計2万円請求されて、ちょっと高い気がしたんですが、そんなものなのかなあ。 

そして2週間後に行くと「はい、見事に更年期に入っておられますね。女性ホルモンの分泌がほとんどなくなっています」

よく、月経が止まると「女じゃなくなる」ことにショックを受けるという世間の話を聞いていましたが、不思議にそうは思いませんでした。

抱え続けた重い荷物をようやくそっと降ろしてもいいよと言われたような。もう十分だよ、と言われたような。そういう安堵さえ覚えたのです。

なにしろ、私は出産という経験をついにしなかったわけですから。

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あんなにつらくてたまらなかったホットフラッシュもいつの間にか収まり、動悸もしなくなり、すると今度は恐ろしいまでの気分の急上昇と急降下が私を待っていたのでした。

これは本当にホルモンのバランスのせいなのか。私の気が狂ったんじゃないか。それとも、そもそもこんな性格だったのか。やたら人や世間に暴力的になったかと思えば、数日寝込まずにはいられないこの心身の重さはいったいなんなんだ。

このまま私はおかしくなっていってしまうんじゃないか。

そういう恐怖心で、身も心もすくんでしまったのでした。ずいぶんと苦しんで、自分を責めて、でもこのところ、だいぶ上向きになって水面が見えるあたりまで上昇してくることができました。苦しくてはき出したらどこまでのぼってゆくのかわからなかった無数の泡が、今は水面で弾けて消えてゆくのが見えます。

でも、まだ完全にそこから抜けたとはいえません。

なにしろ、私のように日常生活に支障が出てくるほどになると更年期「障害」ですから。数年かかる人も、数か月で終わる人もいるらしい。けれどこれだけは言える。

「あなたのその苦しさは、あなただけのものじゃない。そして、必ず上昇できる時がくる」

すべての、更年期の女性と、これから更年期を経験するであろう女性にそう言いたいのです。

自分を信じるしかない。こんな単純な真実を、身をもって実感できたのが、更年期になったときだったなんて。本当にそれができるようになるまで、50年もかかったなんて。

でもいつでも、重い頭の上に水面が見えてくれば、あたりは明るくなる。苦しくてはき出した泡が、安堵の泡に変わるときがくる。

いつだって、そうだったじゃない?

今でも自分にそう言い聞かせながら、毎日暮らしているのです。

写真/池田美樹

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