2018年03月16日

円形脱毛症が現れた。

文/池田美樹

人間、長く生きているといろんな目に遭うものですが、よもや自分の身には起こるまいと思っていたことが起きるときがあります。想像すらしていなかったわけだから、驚く前に現実を理解するまでに少し時間がかかります。

いつものように月に1度のヘアサロンに行ってカットしてもらっているときに、スタイリストさんが「んんっ!?」という声を出してハサミを止めました。

「…池田さん…円形脱毛症になってますね…」

「円形脱毛症…? って、いわゆる10円ハゲ?」

「ええ」

「…………マジですかっ!!」

コトを飲み込むまでにしばらく時間がかかり、ようやく理解し、慌てて、合わせ鏡で見せてもらおうとするもうまく見えません。

「じゃ、じゃあこれで写真を撮ってください」

iPhoneを手渡して2枚、撮ってもらいました。いま、この瞬間に自分の10円ハゲを撮られている女なんているだろうか。そう考えるとなんだか笑えてくるシチュエーションでもあります。

iPhoneの画面には、見事に、ごっそりと楕円形に毛の抜けた後頭部が写っていました。

「仕事柄、お客様の円形脱毛症を発見することはよくあるのですが、みなさま、お気づきになっていらっしゃらないんですよね…。これ、できたばかりの新しいものだと思います」

と、ベテランのヘアスタイリストは淡々と述べます。これまで、彼もいろんなものを見てきたのでしょう。

彼は、ふだんは髪がかぶっていてまったく見えないこと、髪をポニーテールに結んでも見えないことを確認してくれました。

「まあ、人には見えませんし、ほっとけば良くなった、というかたが大半ですから、あまり気にされない方がいいでしょうね」

とはいえ、気になる。どのへんにあるんだろう、と指で耳の後ろあたりをまさぐると、つるんとした手触りのところがあります。ついつい何度も触ってしまいそうになるけれど、きっとあまり触らない方がいいのでしょう。

ヘアカラーの時間になったので、iPhoneの小さなディスプレイで円形脱毛症を検索してみます。相変わらず怪しげなサイトの検索結果もあり「トンデモ医療系記事の問題は果てしないのだなぁ」などと考えつつ、医師監修と書いてあるサイト、病院や製薬会社が情報を提供しているサイトを中心に読んでいきます。

それらをまとめてみると、円形脱毛症の原因とは、おもに以下の4つ。

1.ストレス
2.自己免疫疾患
3.アトピー性疾患と遺伝的疾患
4.婦人科疾患

しかしもっともよく知られる「ストレス」は、実は因果関係としては明らかになっていないのだとか。

私は更年期障害の真っ最中なので、それとも関係があるかと調べてみましたが、少しは関係があるとも言えそうです。

どちらにしても、私にできることは何もない。

確かに、会社を辞めてみたり、大学院のグループ課題が佳境の時期を迎えていたり、新しく始めた活動に熱中して時間を忘れてみたり、ストレス度合いが高いといえば高い。けれど、いつだって何らかのストレスというのはかかっているものなんですよね。

生きてゆく、ってことは。

ちっとも疲れているように思っていなくても、ストレスを感じているような気がしていなくても、身体にサインが出てしまうタイプの私。これまでも、いろんな身体からの警告があった50年の歴史を少し思い出しつつあります。

この円形脱毛症は、私の身体からの何らかのメッセージ。「あるじが、心身をもっといたわってくれますように」という、身体からのお賽銭なのかもしれません。10円だけに。

写真/池田美樹


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